臨床で一般的に使用されている水吸収線量校正用水ファントムは垂直ビーム用が多いと思います。放射線治療施設では必ず所有していると言っても良いでしょう。幅広い測定が可能で、汎用性のある水ファントムです。一方、放射線治療用線量計の一次線量標準機関である「国立研究開発法人 産業技術総合研究所」や、二次線量標準機関である「公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団」での電離箱校正では水平ビーム用水ファントム(写真1,2)が用いられています。
写真1 産業技術総合研究所での計測写真
写真2 医用原子力技術研究振興財団での計測写(線量校正センターニュース No.2より)
双方の特徴を端的に述べれば、垂直ビーム用水ファントムは商品の選択肢が多く、求められるすべての測定が可能であるのに対し、水平ビーム用水ファントムは幾何学的な不確かさが小さく(注1)、外部モニター電離箱を用いた相互校正が可能です(表)。
表1 垂直ビーム用水槽と水平ビーム用水槽の特徴比較
今回はMUラボ製の水平ビーム用水ファントムを用いて設置方法を解説します
1.水平バランサーの微調整用ネジ(6箇所、写真3)を全て緩めてください。また、水平バランサーのレベル調整用の脚を調整範囲の中間程度の位置(写真4)に戻してください。
写真3 ベースプレートの微調整用ネジ(6箇所)を全て緩める
写真4 アジャスト付き脚を調整範囲の中間程度の位置(写真4)に戻す
2.水平バランサーを加速器寝台天板状に設置します。この時、水ファントムを水平ビームの下流側(ガントリ角90度に場合は向かって左側)に寄せて設置しておくと、SSDを合わせる際に天板の移動距離が短く済みます。また、アライメントは照射野の十字線を目安にします(写真5)。
写真5 水平バランサーを光照射野を基準に加速器寝台天板状に設置する。
3.水平バランサーの上に水ファントムを設置します(写真6)
写真6 水平バランサーの上に水ファントムを設置します。
4.水ファントムのアライメント(ケガキ線)を壁面レーザーポインター(LP)に合わせます。
1)水平バランサーは3箇所のレベル調整用の脚で支えられています。まず手前(入射側)の2つの脚を調整して水ファントムのロール(Long方向の水平)を合わせます(写真7)
写真7 水ファントムのアライメント合わせ。手前(入射側)の2つの脚を調整して水ファントムのロール(Long方向の水平)を合わせます。
2) 後ろ(射出側)の1脚を調整してピッチ(Lat方向の水平)を」合わせます(写真8)
写真8 水ファントムのアライメント合わせ。次に後ろ(射出側)の1脚を調整してピッチ(Lat方向の水平)を合わせます。
3)再度、手前(入射側)の位置を確認します。
5.水を照射野サイズより5cm以上高い位置まで注入し、SSDを既定の距離近辺に合うように天板を移動させます(写真9)
写真9 水を注入し、SSDを既定の距離近辺に合わせます。
6.水の荷重で天板が撓むため(写真10)、ここで正確にアライメントを合わせます。高さは水平バランサーのレベル調整用の脚で調整します。横方向の微調整は水平バランサーを移動させるのではなく、微調整用ネジで水ファントムを押ことで微調整が可能です。
写真10 荷重が増え天板がしなるため、再度アライメント調整します。
7.ガントリを水平(ガントリ角90°または270°)に倒します。
8.メカニカルフロントポインタ(MFP)で既定のSSDに合わせます(写真 11)。
⚫︎天板を移動させてMFPの先端を入射窓に近づけ、照射軸方向の微調整用ネジで合わせていきます。
⚫︎MFPで入射窓を強く押さないよう気をつけます。
⚫︎薄い紙がMFPと壁面に差し込めないことを確認し(写真12)、SSDの目盛がズレていないことを確認します。
※ 薄紙が差し込める場合は距離が合っていません。
※ 調整時に水ファントムでMFPのロッドを押してSSDが短くなっている場合があるため再確認しておきます。
⚫︎MFPがない場合はシーリングのLP、もしくは光学距離計を使います。
写真11 メカニカルフロントポインタでSSDを合わせます。
写真12 薄紙がMFPと壁面に差し込めないことを確認します。
9.水ファントムのアライメント(ケガキ線)を再度確認します。
10.電離箱または距離校正用ホルダーを取り付け、深さ方向に移動しても中心位置が偏位しないことを確認し、設置終了となります(写真 13)。
写真13 駆動軸と光軸の一致を確認し、設置終了となります
注意)
※レーザーポインタの位置確認をしてから設置します。
※MFPや光学距離計は定期的に距離を校正しておきます。
※水ファントムの移動軸の位置確認、定期的に校正しておきます。
(注1) 水ファントム設置による線量の標準相対不確かさは、垂直ビーム用水ファントムでレーザーロカライザーを使用して位置合わせする場合は0.14%程度、水平ビーム用水ファントム(入射窓厚5 mm)でメカニカルフロントポインターを使用して位置合わせする場合は0.04%程度と見積もられる[1]。
参考文献[1].
日本医学物理学会.医療用リニアック装置によって校正された放射線治療用線量計による水吸収線量の標準計測法
(リニアック標準計測法 24).
https://www.jsmp.org/wp-content/uploads/c8e6574626901ebc602b337add9475dc.pdf
小口 宏 Oguchi Hiroshi
学歴・職歴 / Academic Background & Work Experience
- 2008年
名古屋大学大学院
医学系研究科医療技術学専攻 博士後期課程満期退学 - 2009年
博士(医療技術学)、名古屋大学、課程 - 1979年4月~2006年3月
信州大学医学部附属病院・診療放射線技師 - 2006年4月~2012年8月
信州大学医学部附属病院・主任診療放射線技師、 - 2012年9月~2023年3月
名古屋大学大学院医学系研究科・准教授 - 2023年4月〜
飯田市立病院