水ファントムのSSD設定について

皆さんはファントムのSSDの設定はどのようにしていますか。
個体ファントムでも水槽でも壁面に設置したレーザーロカライザに合わせている場合が多いかと思います。簡単で便利ですが、下記のような問題もあります。

  1. レーザーロカライザ指示のズレ
  2. 対抗するレーザーロカライザのズレ
  3. 対応するレーザーの太さ
  4. 水槽の水面の見積もり
  5. レーザーロカライザと水面の見積もり
  6. レーザーロカライザと水槽のケガキ線の見積もり

これらが±1 mmで管理されたとした場合、線量に対する相対標準不確かさは0.12%程度となります(±2 mmの場合は0.4%程度)1)。1. 2. に関しては管理方法により変化し、3. の対応するレーザーのレーザービームの幅と投影距離により変わります。4. は表面張力が関係し、水槽壁面が水で濡れる位置が水面より上昇する現象で、固体に接する気体が液体で置き換えられるときに生じる「濡れ」の現象です(写真1)。

写真1

写真1_水面壁の「濡れ」現象の画像(a)

写真1_角部分での「濡れ」現象はより大きくなる(b)

そのため、壁面の「濡れ」に惑わされず、視線の高さを水面に一位させ、しっかり確認する必要があります。5. のように水面をレーザーロカライザーに合わせる場合、水面が光る位置(写真2)を目安にすると思いますが、水面の揺れ(波)幅とレーザーロカライザーのビーム幅の双方の不確かさが加わります。

写真2_レーザーによる水面の輝き(波の影響で均一に見えていない)

6. では、水槽のケガキ線が光る位置(写真3)を目安にしますが、ケガキ線よりビーム幅が太いため、ビーム幅に依存した不確かさが生じます。しかし、ここで細い罫書き線の両端などに白丸のマーカーを張ることで、白丸の中心をレーザーが示す位置を目安にすることで解決できます。いずれにしても、レーザーシステムを利用する場合、その正確さを確認しなければなりません。

写真3_ケガキ線とレーザーが一致している(a)

写真3_レーザーに対してケガキ線が下に寄っている(b)

写真3_レーザーに対してケガキ線が上に寄っている(c)

光学距離計(レンジファインダー)で水面を合わせることも可能ですが、AAPM TG-51 Addendum1)では1.5 mm から 3.0 mmの誤差を生じるとし、標準線量計測では推奨されていません。

最後に、物理的フロントポインタ(メカカルフロントポインタ、ディスタンススティックなど)を用いる場合、まずポインタが示す距離が正確であること(キャリブレーション済み)が重要です。また、ポインタロッドが曲がっていないことを確認することも必要です。その上で水面の位置を設置することで0.5 mmの正確さで設定が可能とされ、その不確かさは0.1%とされています1)。しかし、ここでも水面とポインタ先端の見極めが問題となります。推奨する方法として薄い紙を浮かべ、それを目安に一合わせをする方法です(写真4)。

写真4_水面に薄い紙を浮かべる

紙とポインタ先端が一致したことを確認するためには、紙の端を軽く指で弾いてください。ポインタが紙を押しすぎている場合(実際のSSDが狭い)、紙はあまり動きません。ちょうどよく接している場合は(正確なSSDの場合)、紙がコマの様にポインタを中心にくるくる回ります。一方、接していない場合(実際のSSDが長い)、紙は弾いた方向に流れてゆきます。多少の経験が必要ですが、慣れると簡単にSSD合わせができます。

↓メカニカルフロントポインターによるSSD合わせ
(a) ポインターが紙に接していない状態。
(b)、(c) ポインターが紙に接した状態、ここで紙の端を軽く弾くとポインターを中心に回転する。

(a)

(b)

(C)

この様に水面(SSD)合わせや水槽の位置合わせにはいろいろな方法がありますが、多少面倒でも物理的フロントポインタを用いる方法が、正確さと再現性の両面で最も優れていると考えます。一度試してみてください。

注意)
物理的フロントポインタは幾何学的品質管理でもよく用いられます。当然、コミッショニング時に長さを確認し、正確な距離を示していることが前提です。定期的な確認も必要で、ずれが生じた場合は修正しなければなりません。
しかし、今まで使用していた物理的フロントポインタの長さの品質管理を行わず、それが100 cmでないことが判明した場合は、コミッショニング時と現在の距離の整合性を取ることが重要です。AAPM TG-51 Addendum1)ではあえて100 cmを示す様に修正することは控えるべきとしています。

メカニカルフロントポインターの距離合設定(100 cm)の写真。
ここで正確に100 cmであることを事前に確認することが大切。

参考文献
1) McEwen M, Dewerd L and Ibbott G, et al. Addendum to the AAPM’s TG-51 protocol for clinical reference dosimetry of high-energy photon beams. Med Phys. 2014. 41(4).


小口 宏  Oguchi Hiroshi

学歴・職歴 / Academic Background & Work Experience

  • 2008年
    名古屋大学大学院
    医学系研究科医療技術学専攻 博士後期課程満期退学
  • 2009年
    博士(医療技術学)、名古屋大学、課程
  • 1979年4月~2006年3月
    信州大学医学部附属病院・診療放射線技師
  • 2006年4月~2012年8月
    信州大学医学部附属病院・主任診療放射線技師、
  • 2012年9月~2023年3月
    名古屋大学大学院医学系研究科・准教授 
  • 2023年4月〜
    飯田市立病院 

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